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マル暴からトクリュウへ―警視庁が匿名・流動型犯罪グループ対策に舵を切った理由

マル暴からトクリュウへ。従来の暴力団型組織と、SNSを利用する匿名・流動型犯罪グループを対比した警視庁の捜査転換を表すイラスト

警視庁は2025年10月、大きな組織改編を行った。

従来の「組織犯罪対策部」を刑事部と統合し、新たに**「匿名・流動型犯罪グループ対策本部」**を設置したのである。警視庁の発表によると、この対策本部は副総監を本部長とし、匿名・流動型犯罪グループ、いわゆる「トクリュウ」の構造や資金獲得活動を解明し、中核的人物の摘発と違法なビジネスモデルの解体を目指す司令塔として位置付けられている。

長年、裏社会の犯罪組織といえば暴力団だった。

しかし現在、その構図は大きく変わっている。

今回の警視庁の組織改編は、単なる部署名の変更ではない。

犯罪者側が「組織の形」を変えたことで、警察側も捜査組織の形を変えざるを得なくなった。

筆者は、このように見ている。

「マル暴がなくなった」という単純な話ではない

最初に整理しておきたい。

警視庁がトクリュウ対策本部を新設したからといって、暴力団対策そのものをやめたわけではない。

2025年10月の改編では、警視庁の組織犯罪対策部が刑事部と統合され、刑事部には「特別捜査課」も新設された。つまり、暴力団を含む従来型の組織犯罪対策を継続しながら、トクリュウについては別に大規模な司令塔を置いたという形に近い。

また、全国の警察から「マル暴」が一斉になくなったわけでもない。

地方の警察では現在も、それぞれの地域事情に応じて暴力団や組織犯罪への捜査が続いている。

その意味では、

地方では地域に根付く暴力団などを引き続き追いながら、警視庁は東京を中心として拡大する匿名・流動型犯罪への対応を大幅に強化した

と考えた方が分かりやすい。

昔の犯罪組織には「看板」があった

昔の組織犯罪には、警察から見れば分かりやすい部分があった。

暴力団なら組の名前がある。

組長がいる。

幹部がいる。

構成員がいる。

事務所もある。

組長、若頭、組員という明確な上下関係を持つ従来型の暴力団組織を表したイラスト

当然、犯罪を立証すること自体は簡単ではない。

しかし長期間にわたって人間関係を調べていけば、

「誰が上にいるのか」

「誰と誰がつながっているのか」

「金がどこへ流れているのか」

という組織図を描きやすかった。

昔のニュースでも、

「○○組系暴力団幹部を逮捕」

「○○組の構成員が詐欺事件に関与」

といった報道は珍しくなかった。

つまり犯罪の背後にある「看板」が見えていたのである。

トクリュウは最初から「看板を持たない」

これに対して、現在問題となっているトクリュウはまったく違う。

警察庁は、匿名・流動型犯罪グループについて、中核的人物が匿名性の高い通信手段を利用して自らを隠す一方、実行犯はSNSなどでその都度募集され、逮捕されても新しい人間に入れ替わるという特徴を挙げている。

つまり、

誰が構成員なのかさえ固定されていない。

犯罪のたびに人間が変わる。

実行犯同士がお互いの本名を知らない場合さえある。

指示役と実行役が直接会う必要もない。

当然、「○○組」という看板も必要ない。

ここに、従来の暴力団とは決定的に異なる難しさがある。

犯罪組織に所属しなくても犯罪ができる時代になった

では、なぜトクリュウがここまで広がったのか。

筆者が最も大きいと考えている理由は、

「犯罪をするために犯罪組織へ所属する必要がなくなった」

ことである。

昔なら、組織的な犯罪に継続的に関わろうと思えば、暴力団や半グレなど何らかの人脈に入る必要があった。

裏社会へ入るという一つの大きなハードルが存在していたのである。

しかしSNSがその構造を壊した。

現在ではSNS上に、

「高額」

「即日即金」

「ホワイト案件」

SNSの高収入・即日払いなどの募集から人を集め、スマートフォンでつながる匿名・流動型犯罪グループを表したイラスト

などの言葉を並べて人を募集し、応募してきた人物を犯罪の実行役として利用する手口が確認されている。警察庁によれば、2025年にトクリュウによるものとみられる主な資金獲得犯罪で検挙された人の約3割は、SNS上の犯罪実行者募集が犯行へ加担するきっかけとなっていた。また20代までの若年層が検挙人員全体の約6割を占めた。

これは非常に大きな変化である。

昔なら犯罪組織側が自前で人間を抱える必要があった。

現在は必要になったときだけSNSで募集すればいい。

言ってしまえば、

昔の暴力団型犯罪が「社員を抱える会社型」だったとすれば、現在のトクリュウは必要な人材をその都度ネットで調達する「外注型・プラットフォーム型」の犯罪組織なのである。

SNSは犯罪の募集方法だけでなく「犯罪組織そのもの」を変えた

SNSの影響を、単なる闇バイト募集の問題として見るべきではない。

SNSによって変わったのは、犯罪者の集め方だけではない。

犯罪組織を固定しておく必要そのものがなくなった。

例えば、

実行役
受け子
出し子
運搬役
リクルーター
回収役

などを細かく分業し、それぞれ必要になったときだけ用意すれば犯罪が成立する。

そして末端が逮捕されれば、新しい人物に交換すればいい。

実際、警察庁によれば2025年に検挙されたトクリュウ関連の主な資金獲得犯罪のうち、主犯・指示役だった人物は約1割にとどまっている。

つまり末端は捕まっている。

しかし、その上にいる中核的人物へ届くことが難しい。

これこそ、警視庁がわざわざ大規模なトクリュウ対策本部を設置した大きな理由ではないだろうか。

トクリュウは特殊詐欺だけではない

「トクリュウ=闇バイト強盗」と考えている人もいるかもしれない。

しかし実態はもっと広い。

警察庁はトクリュウについて、特殊詐欺だけでなく、強盗、窃盗、薬物、悪質ホストクラブ、悪質リフォーム、インターネットバンキングの不正送金など、多様な資金獲得犯罪に関係していると指摘している。

警視庁もトクリュウの資金獲得活動として、

特殊詐欺
投資・ロマンス詐欺
強盗
スカウト事犯
悪質リフォーム
オンラインカジノ関連事犯

などを挙げている。

重要なのは、これらをそれぞれ別の犯罪として見るだけでは足りなくなっていることである。

詐欺をする人間。

実行役を募集する人間。

銀行口座を用意する人間。

金を回収する人間。

犯罪収益を受け取る人間。

別々の事件に見えても、その裏側で同じネットワークにつながっている可能性がある。

警察も「事件」ではなく「ネットワーク」を追う時代へ

そのため今後の警察には、

「詐欺だから詐欺担当」

「強盗だから強盗担当」

「暴力団だからマル暴」

という縦割りだけでは対応しにくくなる。

警察が中核人物、資金の流れ、犯罪インフラを分析し、匿名・流動型犯罪グループの全体像を追う捜査を表したイラスト

警視庁のトクリュウ対策本部も、各部署から情報を集約して分析し、犯罪の首謀者や犯罪収益を得ている人物をあぶり出し、戦略的な取締りを指令するとしている。

さらに2025年10月には警察庁に「匿名・流動型犯罪グループ情報分析室」が新設され、警視庁の対策本部には全国警察の捜査員からなる**「匿流ターゲット取締りチーム(T3)」**も設置された。

狙っているのは末端ではない。

中核的人物である。

これは今後のトクリュウ捜査を考える上で非常に重要な動きだろう。

今後は「実行犯を捕まえる」だけではなくなる

今後の警察は、おそらく4つの方向をさらに強化していくだろう。

一つは中核人物。

二つ目は金の流れ。

三つ目はSNSなどを利用した犯罪実行者募集。

そして四つ目が、口座や通信手段など犯罪を成立させるインフラである。

すでに警察では、捜査員が身分を隠して犯罪実行者募集へ応募する「仮装身分捜査」も導入している。

2025年中には13件実施され、強盗予備や詐欺未遂での検挙、さらに犯罪被害の抑止にもつながった。

これは象徴的である。

暴力団なら警察が事務所を監視できた。

しかしトクリュウには事務所がない。

ならば今度は、

警察側からSNS上の犯罪ネットワークへ入っていく。

捜査方法そのものも時代に合わせて変化しているのである。

特殊詐欺への取締りは特に強くなると考える

闇バイト、特殊詐欺、ソフト闇金。

この中で今後警察が最も大きく動く可能性が高いものを挙げるなら、筆者は特殊詐欺だと考える。

2025年の特殊詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺を合わせた認知件数は4万3,000件、被害総額は約3,257億円に達している。

都道府県別の認知件数では東京が5,879件で全国最多だった。

被害規模を考えれば、警視庁が最優先で動く理由は十分にある。

一方、闇バイトは犯罪そのものというより、

トクリュウへ実行役を供給する「人材調達システム」

として徹底的に潰しにくる可能性が高い。

ソフト闇金も無関係ではない

そして当サイトとして注目したいのがソフト闇金である。

現時点で、警察が特殊詐欺と同じ規模でソフト闇金を最重点対象としているとまでは言えない。

しかし今後は、

「違法な貸金業者」という単独の視点だけではなく、トクリュウにつながる犯罪ネットワークの一部ではないか

という視点から捜査されるケースが増えても不思議ではない。

例えば、

ソフト闇金

銀行口座

携帯電話・SIM

名簿

SNS上の人材募集

別の犯罪グループ

といった横のつながりが確認されれば、単純な出資法違反や貸金業法違反だけの話ではなくなる。

もちろん、すべてのソフト闇金が特殊詐欺グループ等とつながっているという意味ではない。

しかし警察がトクリュウという概念で犯罪ネットワークを横断的に分析するようになれば、闇金の背後にいる人物や資金の流れまで調べられる可能性は以前より高くなるだろう。

「マル暴からトクリュウへ」が意味するもの

今回の警視庁の組織改編について、

「暴力団がいなくなった」

「マル暴が不要になった」

と理解するのは違う。

暴力団は現在も存在し、暴力団対策も続いている。

しかし、警察庁自身が指摘しているように、現在の犯罪グループは、組織構造や構成員が明確な従来型犯罪組織とは大きく異なってきた。

昔の裏社会には看板があった。

今の裏社会は、その看板を捨てることで捜査を難しくしている。

そして、

犯罪組織に所属しなくても犯罪に参加できる時代になった。

スマートフォンとSNSがあれば、人を募集できる。

指示を出せる。

役割を分業できる。

人間を入れ替えられる。

だから犯罪者側からすれば、固定された組織を持つ必要性が以前より低くなった。

犯罪者が組織を変えたから、警察も組織を変えた

結局、今回の警視庁の動きを一言で表すなら、これではないだろうか。

犯罪者側が先に組織の形を変えたため、警察側も組織の形を変えざるを得なくなった。

昔は、

○○組を追えばよかった。

現在は、

名前のない犯罪ネットワークを可視化しなければならない。

誰が人を募集しているのか。

誰が指示しているのか。

誰が銀行口座を用意しているのか。

誰が犯罪収益を回収しているのか。

そして最後に、

誰が金を吸い上げているのか。

これからの警察は、そこを追うことになる。

警視庁がわざわざ副総監をトップとする「匿名・流動型犯罪グループ対策本部」を設置したことは、一時的な闇バイト対策ではなく、日本の組織犯罪そのものが大きく変質したことに対する警察側の回答と見るべきではないだろうか。

そして今後、特殊詐欺だけでなく、闇バイト、違法な資金移動、口座売買、犯罪インフラ、さらにはソフト闇金を含めた地下経済のつながりが、これまで以上に横断的に捜査されていく可能性がある。

「マル暴からトクリュウへ」。

これは単なる呼び名の変化ではない。

裏社会が「固定された組織の時代」から「匿名ネットワークの時代」へ移行したことを象徴する大きな転換点なのかもしれない。

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