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給料日までの6日間~専業主婦がソフト闇金に落ちていくまで~

借金苦に沈む女性と金銭の影

夫は、毎朝七時前には家を出る。

帰ってくるのは早くても八時過ぎだった。

疲れているはずなのに、玄関を開けるといつも「ただいま」と笑ってくれる。

だから、お金のことは言えなかった。

今月、生活費が足りないことも。

電気代の請求書をまだ払えていないことも。

冷蔵庫の中身を見ながら、夕飯を一品減らそうかと考えていることも。

全部、言えなかった。

夫の給料が少ないとは思っていない。

むしろ逆だった。

毎日これだけ働いてくれているのだから、このお金で生活を回すのが自分の役目なのだと思っていた。

それなのに足りない。

ということは、悪いのは自分だ。

買い物の仕方が悪いのかもしれない。

節約が足りないのかもしれない。

もっと上手に家計を管理できる人なら、こんなことにはならないのかもしれない。

スーパーでは、百円安い肉を選んだ。

子どもにお菓子をねだられても、「今日は家にあるから」と笑って断った。

自分の昼食は、前の日の残り物で済ませた。

それでも、月末になると口座の残高はほとんど残らなかった。

その月は、特にひどかった。

電気代。

携帯電話代。

子どもの学校で必要になった急な出費。

そして、冷蔵庫が壊れかけていた。

財布の中身を全部出して、テーブルに並べた。

千円札が二枚。

五百円玉が一枚。

あとは小銭。

給料日までは、まだ一週間ある。

私はしばらく、そのお金を見つめていた。

夫に電話しようかと思った。

「今月、ちょっと足りない」

ただ、それだけ言えばいい。

夫は怒らないかもしれない。

むしろ、一緒に考えてくれるかもしれない。

それでも電話はできなかった。

今日も朝から働いている夫に、これ以上負担をかけたくなかった。

そして何より、

「家計もまともに管理できないのか」

そう思われるのが怖かった。

私はスマートフォンを手に取った。

検索画面を開く。

少し迷ってから、文字を打った。

「専業主婦 お金を借りる 闇金」

闇金。

その言葉を自分で入力した瞬間、指が止まった。

怖い。

危ない。

関わってはいけない。

そんなことは分かっていた。

それでも、検索ボタンを押した。

今月を乗り切るには、お金が必要だった。

私は、スマートフォンの画面に並んだ検索結果を眺めていた。

自分で打ち込んだ言葉なのに、改めて見ると胸がざわついた。

闇金が危険なものだということくらい、私にも分かっている。

テレビでも見たことがある。

法外な利息。

しつこい取り立て。

家族や職場にまで連絡される。

そんな怖い世界に、自分が関わるなんて考えたこともなかった。

本当なら、誰かに相談すればよかったのだと思う。

両親。

兄弟。

昔から付き合いのある友人。

思い浮かぶ顔はいくつかあった。

でも、電話をかけることはできなかった。

「お金を貸してほしい」

たったそれだけの言葉が、どうしても言えなかった。

専業主婦なのに生活費が足りなくなった。

夫には言えず、今度は身内にまでお金を借りようとしている。

そんな自分を知られることが、恥ずかしかった。

何より、事情を説明すれば必ず聞かれる。

「旦那さんには相談したの?」

そう言われるのが分かっていた。

夫には、もっと言えなかった。

私はカレンダーを開いた。

夫の給料日まで、あと六日。

六日。

その数字を見たとき、不思議と少しだけ気持ちが軽くなった。

ずっと借りるわけじゃない。

何か月も返済を続けるわけでもない。

給料が入るまでの、ほんの数日だけ。

二万円か三万円あればいい。

給料日にすぐ返せば、それで終わる。

私は自分にそう言い聞かせた。

危険なのは、返せない人が何度も借りるからだ。

私は違う。

返すお金は入ってくる。

返済日も決められる。

一回だけなら大丈夫。

今思えば、その考えこそが一番危なかった。

けれど、そのときの私は本気でそう思っていた。

検索結果の中に、

「専業主婦でも融資可能」

という文字を見つけた。

その下には、

「旦那様に秘密で対応」
「即日融資」
「短期利用OK」

と書かれていた。

まるで、自分のために用意された言葉のように見えた。

私は一度画面を閉じた。

やめたほうがいい。

頭ではそう思っていた。

それでも数分後、また同じページを開いていた。

給料日まで六日だけ。

今回だけ。

すぐに返せばいい。

私はそう繰り返しながら、申し込みページを開いた。

そして、名前を入力した。

申し込みフォームに必要事項を入力し、送信ボタンを押した。

送った直後、私は少し後悔した。

本当にこれでよかったのだろうか。

やっぱりやめたほうがよかったのではないか。

そんなことを考えていると、数分もしないうちにメールが届いた。

件名には、

「仮審査通過のお知らせ」

と書かれていた。

私は思わず画面を見直した。

仮審査、通過。

その言葉だけで、なぜか少し安心した。

メールには、

「お申し込み内容を確認し、仮審査を通過しました。今後の手続きについては担当者よりご案内いたします」

という内容と一緒に、担当者のLINEのQRコード画像が添付されていた。

私はその画像をしばらく見つめた。

申し込みをする前までは、

闇金。

危険。

怖い。

そんな言葉ばかりが頭に浮かんでいた。

けれど、「仮審査通過」という文字を見た瞬間から、その感覚が少し変わっていた。

審査をしている。

担当者がいる。

手続きの流れもある。

それだけで、普通の金融会社とそれほど変わらないような気がしてきた。

もちろん、本当に安全だと思ったわけではない。

まだ少し怖さは残っていた。

それでも、

「ここまで来たなら、話だけ聞いてみよう」

そんな気持ちのほうが強くなっていた。

私はQRコードを読み込み、担当者をLINEに追加した。

すると、ほとんど間を置かずにメッセージが届いた。

「今、お電話できますか?」

私は少し緊張しながら、

「はい」

と返した。

すると、本当にすぐ電話が鳴った。

画面に表示されたLINE通話の着信を見た瞬間、心臓が少し速くなる。

これから闇金の人と話す。

そう思うと、やっぱり怖かった。

私は通話ボタンを押した。

「もしもし。お申し込みありがとうございます」

電話の向こうから聞こえてきた声は、私が想像していたものとはまるで違った。

穏やかだった。

話し方も丁寧で、声を荒らげることもない。

むしろ、普通の金融会社の担当者より優しいんじゃないかと思うくらいだった。

「お時間、大丈夫でしたか?」

そんなことまで気遣われた。

私は思わず、

「はい、大丈夫です」

と普通に答えていた。

電話に出る前まで感じていた恐怖心が、少しずつ薄れていく。

これが闇金?

私は心の中でそう思った。

もっと威圧的な人が出てくると思っていた。

怖い口調で、いきなりお金の話をされると思っていた。

でも実際は違った。

担当者は、申し込みフォームに入力した内容を一つずつ確認しただけだった。

いくつか質問に答えると、担当者は変わらない優しい口調で言った。

「ありがとうございます。では、これから本審査に入りますね」

そして、

「10分以内に、こちらから折り返しお電話します」

と伝えられた。

電話を切ったあと、私はスマートフォンをテーブルの上に置いた。

数分前まであれだけ緊張していたのに、不思議なくらい落ち着いていた。

でも、同時に少しだけ複雑な気持ちにもなった。

闇金って、怖いんだよね?

頭の中にそんな疑問が浮かんだ。

話した感じは全然怖くなかった。

むしろ優しかった。

「思ってたのと違う……」

私は小さくつぶやいた。

そして、気づけばこんなことまで考えていた。

もしかしたら、大丈夫かもしれない。

そんなことを考えているうちに、担当者から再び連絡が入った。

電話に出ると、さっきと変わらない穏やかな声が聞こえた。

「お待たせしました。本審査、通過しました」

その言葉を聞いた瞬間、私は少し安心した。

担当者は続けて条件を説明した。

「完済金額が3万円です。利息が6千円、手数料が3千円になりますので、それを差し引いた2万1千円が即お振込み可能です。返済期限は1週間になります」

私は頭の中で数字を整理した。

受け取れるのは、2万1千円。

返すのは、3万円。

差額は9千円。

一週間で9千円。

冷静に考えれば、決して安い金額ではない。

それでも、そのときの私はそうは思わなかった。

「思ったより安いかも」

最初に浮かんだのは、そんな感想だった。

私は念のため担当者に聞いた。

「もし、1週間後に完済できなかった場合はどうなりますか?」

担当者は淡々と説明した。

「その場合は、1週間後に利息の6千円を払ってもらえれば、支払い日の更新ができます。そこからさらに1週間後に3万円を完済してもらうか、また利息の6千円を払って更新する形ですね」

私はその説明を聞いて、さらに安心した。

完済できなくても、6千円を払えばいい。

逃げ道がある。

そう思った。

「分かりました。お願いします」

私は借り入れすることを決めた。

担当者に振込先の銀行口座を伝え、電話を切った。

あとは入金を待つだけだった。

本当に振り込まれるのだろうか。

そんなことを考えながら待っていると、15分ほどして通知音が鳴った。

銀行アプリからだった。

「え? もう?」

私は少し疑いながら銀行アプリを開いた。

そこには、確かに2万1千円の入金が反映されていた。

本当に振り込まれた。

しかも、こんなに早く。

私は画面を何度も見直した。

申し込みをして、LINEで話をして、審査を受けて、口座を伝えただけ。

それだけで本当にお金が入ってきた。

その瞬間、私は心の底から思ってしまった。

「こんなに簡単に借りられるんだ……」

そして、

「闇金って、もっと怖いものだと思ってた」

とも思った。

担当者は優しかった。

手続きも簡単だった。

入金も早かった。

今のところ、怖いことなんて何も起きていない。

むしろ、今すぐお金が必要だった私にとっては、便利ですらあった。

「私、闇金に対して偏見があったのかも」

そのときの私は、本気でそう思っていた。

これで今月は乗り切れる。

夫にも知られない。

誰にも迷惑をかけずに済む。

給料が入ったら返して、それで全部終わり。

私はそう信じていた。

そして支払い日当日の朝。

担当者からLINEが入った。

「本日が支払い日になります。完済の場合は3万円、利息のみの場合は6千円で支払い日の更新ができます。返済金額はお客様にお任せします」

私はそのメッセージを読んでから、すぐに銀行口座を確認した。

夫の給料は、すでに振り込まれていた。

ただ、金額を見た瞬間、少しだけ胸がざわついた。

「いつもより少ない……」

本当なら、今日3万円を返して終わらせるつもりだった。

でも、頭の中で今月の支払いを思い浮かべると、急に不安になった。

家賃。

光熱費。

食費。

携帯代。

子どもに必要なお金。

ここから3万円を出してしまったら、また月末に苦しくなるかもしれない。

私はしばらく考えた。

完済するか。

6千円だけ払って、もう1週間延ばすか。

6千円なら、今月の生活にはまだ余裕を残せる。

来週になれば、また何とかできるかもしれない。

「今回は利息だけにしよう」

私は担当者にそう伝え、6千円を支払った。

確認が取れると、担当者からすぐに返信が来た。

「ありがとうございます。支払い日を1週間更新しました」

それだけだった。

怒られることもなかった。

責められることもなかった。

簡単に返済日が延びた。

私はその瞬間、少しだけ安心していた。

でも、本当は違った。

私はこの日、借金を返したのではない。

6千円を払って、問題を1週間先送りにしただけだった。

それから、また1週間が過ぎた。

支払い日の朝。

前回とほとんど同じ時間に、担当者からLINEが入った。

私は口座残高を確認した。

夫の給料日から、すでに一週間が経っている。

当然、家賃も払った。

食費もかかった。

光熱費も引き落とされた。

口座に残っている金額は、給料日当日より確実に少なくなっていた。

3万円。

払おうと思えば、払えない金額ではなかった。

でも、ここで3万円を出したら、その後の生活が苦しくなる。

私はまた同じ結論を選んだ。

「今回も利息でお願いします」

そして、また6千円を振り込んだ。

最初に2万1千円を借りてから、私はすでに利息として1万2千円を支払っていた。

それでも、完済するための3万円は一円も減っていない。

そのことに気づいた瞬間、初めて少し怖くなった。

「私、何をやってるんだろう……」

でも、また来週考えればいい。

そう思うことにした。

ソフト闇金から借りて2週間。

利息だけで1万2千円を支払い、生活は確実に苦しくなっていた。

スーパーで買い物をするときも、値段ばかりを見るようになった。

必要な物をかごに入れては、

「これは来週でもいいか」

と棚に戻す。

次の返済日も近づいていた。

また6千円を払うのか。

それとも3万円を完済するのか。

どちらを選んでも苦しかった。

そのとき、ふと思った。

別のところから借りればいいんじゃないか。

自分でも危険な考えだとは分かっていた。

でも、最初に利用したときのことを思い出した。

申し込みは簡単だった。

担当者も優しかった。

入金も早かった。

私はまたスマートフォンを開いた。

そして、別のソフト闇金を検索した。

条件は、最初に借りた業者とほとんど同じだった。

完済3万円。

利息6千円。

手数料3千円。

実際に振り込まれる金額は2万1千円。

返済期限は1週間。

私はその条件を聞いて、安心してしまった。

「同じなら大丈夫」

そう思った。

二社になったとしても、利息は合わせて1万2千円。

高いとは思った。

でも、払えない金額ではない。

少なくとも、そのときの私はそう計算した。

「お願いします」

私は二社目からの借り入れを決めた。

最初は、給料日まで生活するために借りたお金だった。

でも二社目は違った。

生活費だけではない。

すでにある借金を抱えたまま、その苦しさを埋めるために借りたお金だった。

それから二社目の支払いも始まった。

私は二社分の利息、合計1万2千円を支払った。

来週になれば夫の給料が入る。

そのときに一社は必ず完済しよう。

そう決めた。

そして、夫の給料日。

私は迷わず一社目の担当者に連絡した。

「今日は完済します」

3万円を振り込んだ。

しばらくすると、

「完済確認しました。ありがとうございました」

と連絡が届いた。

その文字を見た瞬間、私は心の底からほっとした。

終わった。

一社、終わった。

残り一社を完済すれば大丈夫。

私はそう自分に言い聞かせた。

でも、現実は簡単ではなかった。

一社を完済するために支払った3万円。

その3万円が、思っていた以上に家計に響いていた。

家賃を払う。

光熱費を払う。

食費も必要になる。

そこに残っているソフト闇金への利息6千円も加わる。

日が経つにつれて、また口座の残高が心細くなっていった。

そして、また生活費が足りなくなった。

その瞬間、頭に浮かんだのは夫でも家族でもなかった。

以前完済したソフト闇金だった。

一度借りている。

担当者のことも知っている。

返済もきちんと終わらせた。

最初に申し込んだときのような怖さは、もうほとんどなかった。

「一回返してるんだから、また借りても大丈夫」

そんな気持ちになっていた。

私はLINEを開いた。

完済したあとも残していた担当者とのトーク画面。

最後のメッセージは、

「完済ありがとうございました」

で止まっていた。

私はメッセージ欄を開いた。

そして、

「また借りることはできますか?」

と送った。

返信は、すぐに来た。

それから一か月。

私は、借りて、利息を払い、完済して、また借りる。

そんなことを繰り返していた。

気づけば、利用しているソフト闇金は三社になっていた。

完済金額は一社3万円。

三社合わせて、9万円。

利息だけでも、一週間で1万8千円。

数字にすると、さすがに自分でも異常だと思った。

でも、そのときにはもう、簡単には戻れなくなっていた。

生活費が足りない。

利息も払わなければならない。

だからまた借りる。

借りたお金で生活をつなぎ、その間に別の業者への支払いをする。

いつの間にか私は、家計をやり繰りしているのではなく、返済日をやり繰りする生活になっていた。

そして、ついにその日が来た。

どう計算しても、お金が足りない。

1万8千円の利息すら用意できなかった。

仕方なく、それぞれの担当者へ連絡を入れた。

「今週、どうしても支払いが難しいです」

「少し待ってもらえませんか」

「必ず払います」

私は何度も謝った。

でも、返ってきた言葉は三社ともほとんど同じだった。

「金策してください」

別の担当者からも返事が来た。

「返済が遅れれば、取り立ての対象になります」

その言葉を見た瞬間、背中が冷たくなった。

さらに、

「どうしてもお金が作れないなら、銀行口座を指定の場所に送ってもらいます」

という内容まで送られてきた。

私は何度も文章を読み返した。

「それはできません」

そう返信すると、

「じゃあ金策してください」

とだけ返ってきた。

そこで初めて、私は気づいた。

これまで優しかったのは、私が約束通りお金を払っていたからだった。

担当者が優しかったから安全だったわけじゃない。

返済できている間だけ、私は“客”として扱われていただけだった。

最初は、たった2万1千円だった。

給料日までの数日だけ。

それだけのつもりだった。

それが一か月後には三社。

完済総額9万円。

週の利息だけで1万8千円。

そして今、私は返済できず、取り立てという言葉に怯えている。

そのときになって、ようやく思った。

私、本当に闇金から借りてたんだ。

本当に怖いのは、借りるときじゃなかった。

返せなくなったときだった。

夫には、まだ何も話していなかった。

三社から借りていることも。

返済に詰まっていることも。

担当者から取り立てを示すような言葉を送られていることも。

全部、一人で抱えていた。

夫に知られたらどうなるんだろう。

怒られるかもしれない。

呆れられるかもしれない。

「どうして最初に相談しなかったんだ」

きっとそう言われる。

その言葉を想像するだけで、胸が苦しくなった。

でも、だからといって他に誰へ相談すればいいのかも分からなかった。

両親には言えない。

友人にも言えない。

私は完全に一人だった。

昼間、夫が仕事に出ている時間も、頭の中にあるのは返済のことばかり。

スマートフォンが鳴るたびに、担当者からではないかと心臓が跳ねた。

LINEを開くのも怖い。

でも、開かないのも怖い。

その日の夜。

夫が寝たあとも、私は眠れなかった。

布団の中でスマートフォンを眺めながら検索を続けていると、

「闇金に強い弁護士」

「闇金対応の司法書士」

そんな文字が目に入った。

相談して、本当に大丈夫なのだろうか。

こんなことを話したら怒られないだろうか。

夫に連絡されたりしないだろうか。

相談したことが闇金に知られたら、もっとひどい取り立てをされるんじゃないだろうか。

私は一晩中悩んだ。

でも、まだ相談は最後の手段だと思っていた。

自分で何とかしなければ。

そう思っていた。

返済するには、お金が必要だった。

私はスマートフォンで、昼間だけ働ける仕事を何度も探した。

夫は朝から夕方まで仕事で家にいない。

その時間なら、気づかれずに働ける。

でも、短期間でまとまったお金を作れる仕事は、なかなか見つからなかった。

そんな中で、頭によぎったのが風俗だった。

最初は、自分でもその考えを打ち消した。

無理。

できるわけがない。

そう思った。

でも、闇金の返済日は待ってくれない。

昼間なら夫には分からない。

短時間でもお金になる。

少しだけ働いて、借金を返したらすぐに辞めればいい。

また私は、自分にそう言い聞かせた。

結局、私は面接に行き、働き始めた。

でも、長くは続かなかった。

私はどうしても無理だった。

夫以外の男性と接することに、強い抵抗があった。

仕事だと割り切ろうとしても、気持ちはついてこなかった。

帰宅して夫の顔を見るたびに、胸が苦しくなった。

夫は何も知らない。

「今日どうだった?」

と普通に話しかけてくる。

私は笑って、

「いつも通りだよ」

と答える。

そのたびに、罪悪感が増えていった。

数日で、私は辞めた。

でも、借金は残っている。

お金も足りない。

逃げ道は、もうほとんど残っていなかった。

そして最後に浮かんだのが、実家だった。

両親。

一番知られたくなかった相手の一人だった。

でも、もう自分一人ではどうにもできない。

私は実家へ向かった。

玄関の前に立ったとき、なかなかインターホンを押せなかった。

ここで話したら、全部知られる。

情けないと思われるかもしれない。

怒られるかもしれない。

それでも私は、震える指でインターホンを押した。

家に入り、両親の前に座った。

何から話せばいいのか分からなかった。

しばらく黙ったまま、私は下を向いていた。

そして、ようやく口を開いた。

「お金のことで、相談があるの」

声が震えた。

一度言葉にすると、もう止められなかった。

夫に言えなかったこと。

生活費が足りなくなったこと。

ソフト闇金から借りたこと。

一社が二社になり、三社になったこと。

利息を払い続けたこと。

もう返済できなくなっていること。

私は全部話した。

両親は、私の話を最後まで聞いたあと、しばらく黙っていた。

そして父が言った。

「9万円、貸すよ」

私は顔を上げた。

「それで全部返しなさい。ただし、これで最後。二度と闇金には手を出さないこと」

母も同じように頷いていた。

私は何度も、

「分かった。絶対にもう借りない」

と答えた。

両親だって、お金に余裕があるわけではない。

今回だけ。

本当に今回だけ。

そう言われて9万円を借りた。

翌日、私はすぐに三社の担当者へ連絡した。

「完済します」

三社すべてに完済金額を支払った。

一社。

二社。

三社。

振り込みを終えたあと、しばらくして、それぞれの担当者から同じような連絡が届いた。

「完済の確認が取れました。またのご利用お待ちしております。」

その文章を見た瞬間、私はスマートフォンを握ったまま大きく息を吐いた。

終わった。

やっと終わった。

本当に長く感じた。

最初に借りたのは、たった2万1千円だった。

給料日までの数日を乗り切ればいい。

それだけのつもりだった。

それが気づけば三社。

完済総額9万円。

利息を払い続ける生活。

返済できなくなる恐怖。

取り立てへの不安。

働きたくもない仕事までして、それでも足りなかった。

私は何をしていたんだろう。

最初に生活費が足りないと分かったとき、夫に相談していればよかった。

「今月ちょっと厳しい」

その一言を言うことができていれば、ここまで苦しむことはなかったのかもしれない。

あれだけ毎日頑張って働いている夫に、お金のことで負担をかけたくない。

家計をうまくやり繰りできない自分が悪い。

そう思って黙っていた。

でも、その結果、もっと大きな問題を一人で抱えることになった。

私は強く思った。

今度から、お金のことで困ったら夫に相談しよう。

一人で勝手に何とかしようとするのは、もうやめよう。

両親にまでお金を借りたことも、私には大きかった。

大人になってからも両親を頼らなければならなかった自分が嫌だった。

返済のためとはいえ、自分が望んでもいない仕事まで選ぼうとした。

そこまで追い込まれて初めて、私は自分がどれだけ普通の生活から離れてしまっていたのかに気づいた。

一時は、弁護士や司法書士に相談することも考えた。

でも当時の私は、

「専門家に相談したら夫にも知られてしまうかもしれない」

「そこから夫婦関係まで壊れてしまうかもしれない」

そんなことを怖がっていた。

今回は両親に相談し、何とか解決することができた。

だからこそ、私は一つだけ強く思う。

お金に困ったとき、一人で抱え込まないこと。

自分だけで何とかしようとしないこと。

相談できる家族や身内がいるなら、闇金に連絡する前に、まず話してみること。

あの日の私には、それができなかった。

「数日だけなら」

「すぐ返せるから」

「今回だけだから」

そうやって自分に言い聞かせて、私は闇金への最初の一歩を踏み出した。

でも、闇金は借りた瞬間よりも、返せなくなったときのほうが怖かった。

私は三社すべての担当者とのLINEを開いた。

トーク履歴を削除する。

連絡先も消す。

サイトのブックマークも削除した。

もう二度と連絡しない。

もう二度と借りない。

「また困ったら借りればいい」

そんな逃げ道を、自分の中に残したくなかった。

最後の連絡先を削除して、私はスマートフォンをテーブルに置いた。

これで、本当に終わりにする。

そして次にお金で困ったときは、

借りる方法を探す前に、

まず誰かに相談しよう。

私はそう決めた。

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