違法な高金利で貸し付け、返済が滞れば本人だけでなく家族や勤務先にも取り立てを行う闇金。長年にわたり摘発と注意喚起が続いているが、その営業はなくなっていない。
理由を利用者の知識不足や生活困窮だけに求めても、問題の全体像は見えてこない。闇金が営業を続けるには、貸付金を渡し、返済金を受け取り、犯罪収益を移動させる仕組みが必要だからだ。
現在、その中心にあるのが他人名義の銀行口座である。闇金を減らすには、業者を一件ずつ摘発するだけでなく、売買された口座を使えない金融システムに変える必要がある。
「減った」とは言い切れない闇金の実態
検挙件数だけでは実数を把握できない
警察庁によると、2025年のヤミ金融事犯の検挙事件数は550件だった。2023年の671件、2024年の639件からは減少したが、2021年の502件を上回っている。
ただし、検挙件数は警察の捜査方針や、一つの事件としてまとめる範囲にも左右される。検挙件数が減ったからといって、実際に活動している闇金の数まで同じように減ったとは限らない。
非対面で営業する闇金ほど実態を把握しにくく、利用者が警察などに相談しなければ被害が表面化しないからだ。
正規金融から借りられない人を闇金が狙う
銀行や正規の消費者金融から借りられなくなっても、お金を必要とする人はいなくならない。その行き場のない需要を闇金が狙っている。
利用者を教育し、家計を立て直せば闇金がなくなるという見方にも限界がある。信用状態や収入は短期間では変わらず、家計管理を学んでも行動が必ず変わるとは限らない。
節約や支出の制限を強いストレスと感じ、反動で浪費する人もいる。お金の使い方を知らない人に教育が有効な場合はあっても、分かっていても守れない人に同じ支援をして効果が出るとは限らない。
需要を完全に消すことが難しいのであれば、闇金側が営業しにくい環境をつくるほうが直接的である。
利用者の責任と犯罪被害は別問題
利用者が浪費やギャンブル、借り入れの繰り返しによって困窮した場合には、本人の選択にも責任がある。
一方、それを理由に違法な金利、脅迫、嫌がらせから保護しなくてよいことにはならない。闇金を利用した責任と、その後に受ける犯罪被害は分けて考える必要がある。
警察は脅迫や嫌がらせなどの犯罪被害を止める。債務整理を弁護士や司法書士へ依頼する費用については、既存の扶助制度の対象となる場合を除き、原則として本人が負担する。このような線引きも考えられる。
闇金を支える「他人名義口座」
銀行口座は闇金の営業インフラ
闇金が自分名義の口座で返済金を受け取れば、捜査機関に身元と資金の流れを把握されやすい。そこで使われるのが、売買や譲渡によって集められた他人名義の銀行口座だ。
口座が一つ凍結されても、別の口座へ乗り換えれば営業を続けられる。利用者と直接会わなくても、全国から返済金を集められることも大きい。
現金手渡しでは、利用者と接触しなければならない。顔を見られ、待ち合わせ場所を撮影され、尾行や張り込みを受ける可能性もある。
銀行口座なら、こうした危険を抑えながら融資と回収を繰り返せる。他人名義口座は単なる受取手段ではなく、闇金の営業を支える重要なインフラなのである。
2025年に確認された5,285口座
警察庁の統計では、2025年にヤミ金融事犯に関して金融機関へ情報提供された口座は5,285口座に上った。
同年、預貯金通帳などの不正譲渡等による犯罪収益移転防止法違反の検挙は4,489事件あった。
口座売買は闇金だけでなく、特殊詐欺などを含む金融犯罪全体の基盤になっている。
現在の銀行対策には限界がある
口座凍結は犯罪発生後の対応になる
警察は犯罪に利用された口座の情報を金融機関へ伝え、凍結を促している。
2026年の犯罪収益移転防止法改正では、口座の不正譲渡等が厳罰化された。口座名義人が口座を手元に残したまま、報酬を受けて犯罪資金を別口座へ動かす「送金犯罪」に対する罰則も設けられた。
しかし、犯罪が判明した後に口座を凍結するだけでは、口座が使われた後を追い続けることになる。
闇金側が別の口座を用意すれば、同じことが繰り返される。必要なのは、犯罪に使われた口座を後から止める対策だけではなく、売買された口座を第三者が使えない仕組みである。
金融庁も対策を「総体として不十分」と評価
金融庁は2025年、金融機関に口座の不正利用防止策を強化するよう求めた。
その後の調査では、口座売買の違法性を知らせる取り組みなどは進んだ一方、不審な取引の検知や取引の保留、利用制限など、システム対応が必要な項目の進展は「限定的」だった。
金融庁自身が、金融機関全体の対策状況を「総体として不十分」と評価している。
銀行が対策をしていないわけではない。しかし、何らかの対策を行っていることと、利用可能な技術を最大限に使って犯罪を防ごうとしていることは同じではない。
公的個人認証をすべての銀行取引へ
マイナンバーカードのICチップを活用する
そこで検討すべきなのが、銀行口座とマイナンバーカードのICチップに搭載された公的個人認証サービスとの連携である。
公的個人認証サービスは、マイナンバーそのものではなく、ICチップに入った電子証明書を使って本人を確認する仕組みだ。
行政だけでなく民間事業者も利用でき、すでに銀行口座や証券口座の開設、ローン契約などで導入されている。
デジタル庁によると、2026年6月末時点で公的個人認証サービスを利用する民間事業者は1,284社に達している。
この仕組みを口座開設時だけでなく、ATMからの出金やオンライン送金にも広げる。キャッシュカードや登録端末だけでは取引できず、口座にひもづいたマイナンバーカードによる認証も求める。
必要に応じて、顔認証などの生体認証や登録端末の確認も組み合わせる。
口座売買の代償を大きくする
マイナンバーカードを使う狙いは、操作している人物を確認することだけではない。
口座を売るなら、行政手続きや健康保険証利用など、日常生活に関わるマイナンバーカードまで相手に預けなければ、闇金側が自由に出金できない状態をつくることに意味がある。
キャッシュカードだけを渡す口座売買に比べ、名義人の負担と危険は格段に大きくなる。
闇金側も口座を調達しにくくなり、名義人本人をその都度動かさなければならなくなる。口座の調達費用と手間が増え、営業の効率は下がる。
国が全銀行への導入を義務づける
一部の銀行だけが認証を厳しくすれば、犯罪者は対策の弱い銀行へ移る。そのため、銀行の自主的な判断に任せるのではなく、国が共通仕様と導入期限を定め、全銀行へ義務づける必要がある。
対象は新規口座だけではない。既存口座を含む全口座に適用し、ATMとオンライン送金の両方を対象にする。
一定の移行期間を設けたうえで一律に適用しなければ、抜け道が残る。
共通基盤の整備や初期改修は国が支援し、各銀行のシステムへの実装と運用は銀行が負担する。
認証のたびに利用者へ手数料を課せば、安全な取引が所得によって左右されるため、利用者に直接負担させるべきではない。
不審な口座は確認前に一時停止する
過去と大きく異なる取引を検知する
公的個人認証だけでは、名義人本人が報酬を得て闇金に協力するケースを防げない。そこで必要になるのが、取引の変化を検知する仕組みである。
それまで個人利用だった口座へ突然、不特定多数から入金が始まり、その直後に全額近くが出金される。
似た金額の入金が短期間に繰り返され、普段と異なる端末や地域から操作される。
こうした複数の兆候が重なった場合には、犯罪の確定を待たず、出金と送金を一時的に停止する。
キャッシュカードや通帳を窓口に提出させる
利用制限を解除するには、名義人本人が銀行窓口へ出向き、公的個人認証を受ける。
そのうえで、キャッシュカード、通帳、登録端末など、口座へのアクセス手段一式を提出し、入金の理由を説明する。
口座を売った名義人は、自分の手元にキャッシュカードや通帳がない。解除するには、それらを闇金から取り戻さなければならない。
闇金側が返却すれば、名義人との接触や配送など新たな痕跡が残る。返却しなければ、その口座は使えない。
どちらを選んでも、闇金にとって使い捨て口座としての価値は下がる。
「紛失した」という申告を抜け道にしない
名義人が「紛失した」と申告し、簡単に再発行を受けられるのであれば抜け道になる。
カードなどを提出できない場合には、紛失や盗難の届出、取引内容の詳しい説明、一定期間の利用制限を求めるべきだ。
説明できなければ停止を続け、口座の解約や警察への情報提供を検討する。
誤停止への対策も必要
不特定多数からの入金は、個人事業、会費の集金、ネット販売など、正当な取引でも起きる。
一つの条件だけで自動停止すれば、無関係な利用者まで巻き込まれる。
入金者数、出金までの時間、取引金額、使用端末、利用地域、口座の利用目的など、複数の兆候を組み合わせる必要がある。
誤って停止された人が迅速に異議を申し立てられる仕組みと、銀行側の審査期限も欠かせない。
プライバシーへの歯止めも必要
銀行が保存する情報は最小限にする
公的個人認証の全面利用は強い制度であるため、プライバシーへの歯止めも必要になる。
銀行が保存する情報は、認証に成功したか、どの取引について確認したかなど、必要最小限に限定する。
マイナンバー、顔画像、行政情報、医療情報まで収集することを認めてはならない。
認証情報の目的外利用、第三者への提供、保存期間、閲覧できる担当者の範囲を法律で制限し、独立した機関が運用状況を監査する必要がある。
例外手続きほど厳格にする
マイナンバーカードを持っていない人、電子証明書の期限が切れた人、カードを紛失した人、成年後見制度を利用している人、災害やシステム障害が発生した場合には代替手段も必要になる。
ただし、例外手続きが簡単であれば、そこが新しい犯罪の入口になる。
例外の場合ほど銀行窓口で複数の資料を確認するなど、厳格な手続きを設けるべきである。
闇金を減らすために今動くべきなのは銀行
銀行口座を使えなくしても、闇金が現金手渡し、電子マネー、暗号資産へ移る可能性は残る。
それでも、対面での受け渡しは接触の危険を高める。他の決済手段も、銀行口座と同じ規模や利便性を持つとは限らない。
犯罪を一度にゼロにできなくても、業者の手間と費用を増やし、発覚や摘発の危険を高め、採算を悪化させることには意味がある。
闇金利用者をゼロにすることは難しい。だからこそ、利用者の更生や注意力だけに期待するのではなく、闇金が必要とする金融インフラを使えなくする発想が必要だ。
必要な中核技術はすでに存在している。残る問題は、それを全国の銀行取引へ組み込む制度的な意思決定である。
闇金を減らすため、今最も大きく動けるのは銀行だ。そして、銀行を一斉に動かす責任は国にある。





